海の夜はとてもきれい、静かな波が不意に耳へと訪れて、まるでそれすらも眠りを呼ぶかのようだと思う。










「ドレーク、ねえドレーク、この布団すごくいい匂い、」
「今日は天候が良かったからだろう。太陽がよく出ていた」
「えーあんまり見てないくせにー、ずっとしかめ面で航海図見ててはつまんなかったです」

そう、口を尖らせた仕草を見せれば、彼はまた視線を元に戻した。
めくられる書類が微かな音を立てて。思わずにその様子を、彼のように追ってみていたら、最後の一枚がぺらりと回って、両手で机に叩かれて、
綺麗に揃えられた数十枚が机の端に置かれた、きっと終わったのかなと、思う。
思わずは頬が緩んで、聞こえるかの声で笑いを溢せば、徐に立ち上がった。
「お布団をしこー寝るぞ―」

ずるずると布団を引き摺りながら、船長室であるこの一室に、一組の布団を敷き始める。
彼の部屋は船長らしく広く作られていて、ベット様に高く作られた場所もちゃんと用意されているので、地べたに敷くという事は無い。
何十センチか高い木組みのセットに布団を持ちあげて、いそしそと手を伸ばす、一面が海のように波を引いて、静かに皺がきえていく、
少しだけ潮の匂いが無くなりきれないのは、もう慣れっこだし、むしろそれが好きだとすら思う。
手慣れた流れを終わらせて、綺麗なベットに飛び込む、もちろん靴は脱いでいた。
いつも踵を踏むなと怒られて、それでも潰してしまった型を見る、ドレークに、口を開いた。
「ふかふか、」

「折角皺まで伸ばしたのを、」
「そりゃあ、伸ばして―ダイブがいいの…」

ついと腕をあげる、彼がコートを脱ぐ仕草を、転がった体制で横の画面ながらも見続ける。
肩からするりと抜けていくコートと、見慣れた上着と、その下で徐にぬぎ捨てられるブーツとを、
鎧のような服を脱いだって、体に縫い付けるような傷が痛ましい、自分の倍はある腕が寄ってきて、
ベットに腰を下ろす。大きな熊と寝た方がまだ柔らかいんじゃないかと、ふと思った。
かたくて強そうな腕が、いつも自分を甘やかしたり泣かせたりするんだという自覚は、思った以上に恥ずかしいものだった。
晒された肩に手をついて、首の下にくっついてみる、そこでやっと生きてるんだなあと、思ったりもする。
「ドレーク普通の時も怪獣みたい」
「そうか、」
「どれ、このふかふかさんが枕になってあげよう」

おいでなさいと笑いかけて、不意に腕に絡みつけば、彼の背中がくるりと動き、見えた顔を確認する前に、
その腕に引かれて、まるで二人で沈んでしまうかのように、ベットにどさりと寝転んだ。
灯りをつけていないせいだ。はそう思った。不用意に彼に甘えてしまうのも、
いつもよりも彼が与えてくれるのも、きっと暗くて見えない所為だ。

「抱き枕か」
「ドレークさんのえっちー」
「それはすまないな」

二人が向き合う様にして、ドレークがの視界を奪う。見つめ合うのはまだドレークの顔がよく見えないから、それだけがせめてもの救いだった。
明るかったら逃げてしまいたくなるのにな、そんな風に思いながら、ドレークのを掴む腕を握り返した。
僅かな光がまるで手綱のように、二人の線をなぞりベットを跨いでいる。
ドレークは手を出したりはしないが、そういう気に纏われていない訳ではなかった。
が小さく笑う声を耳にするだけで、心臓の奥でゆるやかな血流が一度、どくりと音を出して、
聞こえてしまうんではないだろうかという気を張るのと同時に、その気に惑わされ乱れ崩れそうにもなる。
ゆるやかな光の線だけでわかる。距離は無いにも等しいようなものだった。
まるでくちづけを交わしたすぐ後のような、余韻のような空気に満たされていた。
息を吐けば、の吐息まであたりそうだ。ドレークは掴んでいた腕を引き寄せて、その唇に徐に触れる。
は一度反応を示したが、躊躇は見せなかった。

「…もうちょっといいお布団が欲しいな」
「どうしたんだ、いきなり」
「もっと、こう…飛び込んだ時にばふっていう…」
「…そうか」
ドレークが一度、留まる様に会話を濁した。
その一拍の間を見せられて、は少し、思いがけない不安にかられた。
静かな夜に合わせるかのように、ささやかに声を投げかける。

「…だめ?」
「そうだな、」
「なに?、」
ドレークが一度、掴んでいた腕から手を離し、ゆっくりと腰のあたりにおろすのを感じた。
なぞる様に鎖骨を通るその男の指の感触を、思考の端で、少しだけ意味がわかったような気がしたせいで、余計な羞恥には晒された気分になった。

「…楽しませてくれるのなら、買ってもいいだろう」

ドレークの左手がゆっくりとあがってくる。きっと剥いで楽しむ気なんだ。
向かい合う体制から、彼が自分にまたがろうとする動きを、僅かな影と線で追いかけながらに、
やっぱりえっちだ、と思いながら、ゆっくりと肌に手を駆ける指に震えながら、静かに声を、零した。













布団をつれて、(20090712)