ボニ―さんの船員が、何度もお店から行き来しながら、たくさんのお土産やらランチの山を運んできた。
今更ながら…これが全部あの細いボニ―さんの体の中に入ってしまうなんて、信じられない!














Dramatic...5
































「……ふーん、あんた身寄りがなくて記憶喪失とは…とことんついてねえんだな」
「ほんとですね…」

で、って言ったっけ?と、また目の前のピザを頬張りながら、ボニ―さんは尋ねてきた。
たぶんこの人は食べる事は呼吸ぐらい茶飯事なんだろうなあ、なんて思いながらに、はい。と返事を返す。
そうして見ていると、ボニ―さんは山のような中からないか一つ掴み上げ、の前に差しだした。
「やるよ、うめえから」
そうして、渡されたのは一つのケーキだった。
……これは、おいしそう…
先ほどあんなに肉を食べていたというのに、こうも甘いものだと食べてしまえそうなのが、自分がまだ正常な証拠だと、は内心に思った。
おいしそうなそのケーキをみながら、ボニ―さんからスプーンを渡される。その優しくて、すごく頼りになりそうな笑顔に、も思わず笑い返した。
「ありがとうございます」
「どうも、それとさ…敬語はいらねえよ、部下じゃねえんだし」
「あ、…うん!」

もう一度ありがとう、そう言って、がケーキを口にすれば、肉でいっぱいだった中に今度は甘いものが入る。
これがまたびっくりするくらいおいしかった。
「おいしい!ボニ―さんこれすごいおいしい!」
「あっはっはっは!かわいい顔して!また食わせてやるさ!」
なあお前ら!そうボニ―さんが船員に言うと、みんながまたたくさんのご飯を並べて広げて…、
…いや、もう食べれないなあ、なんて思いながらも、殆どすごい速さでボニ―さんの口の中へとなくなっていくので、言う必要はないなと、はすこしだけ笑ってしまった。

「じゃあ、私はこれで…」
「?なんだよ、行くトコでもあんのか?」
「うん、ちょっと探してる人がいて…」
「オイオイこの広い島でかよ?どっかの店の奴か?」

あ、
と、はボニ―の言葉に背を向きかけた足をとめた。
確かにそうだ。今どこかにローさんやベポがいるのかもしれないが、もうすでにドレーク達の所にはいないだろう。
おまけに自分が一人でふらふら歩くと、この異様な姿の所為で、また人攫いに狙われるかもしれない。無闇矢鱈にあちらこちらを歩きまわるのは、自分に帰って危険が及ぶ、自殺行為に為り兼ねなかった。
足をとどめたままに、上手く見つけられる方法は無いだろうかと、周りを見渡した。
すると、向こう側の陰に閉ざされた、店と店の間で、よく知っている顔が見えた。
ルーキーの内…懸賞金は三番手にも及ぶ、バジル・ホーキンスだ。

…うわあ本物だ…声かけたいなあ、あわよくば占って欲しいな…。
がそんな下らない事を考えていると、ボニ―がいきなりの腕を掴み、膝の裏に手を打って、脚をつかせた。
がくんと倒れるように座り込んだは、驚きながらボニ―に顔を向けると、素早く彼女の手に口を押さえられた。

「しっ…黙ってろ…!天竜人が来る……!!」

(……天竜人………!!)

ボニ―と同じに膝をつきながら、ボニ―の方を向くと、彼女の視線の先もまた多くの人間が膝をついて、静かに顔を暗くしながら、地を向いていた。

「まさかこんな無法地帯にまで来るとは……迷惑な貴族様だぜ……」

そして、ゆっくりとした呻き声とともに、その姿は段々と近づいてきた。
たった一人の人間の周りに、まるで悪夢のような空気が漂っている、その中心で、アイスを頬張りながらくちゃくちゃと陰湿に醜い音を立てる…小汚い顔をした男。…あいつが天竜人だ…。
男は自分を乗せている男を蹴り飛ばしながら、すさんだ文句を言い放ち、その男が苦痛にゆがむその顔を見ても何も感じた様子は無く。まるで同じ人間では無いかのような扱いだ。
そして、その光景を見続ける事に恐れを感じたは、静かに下を向いて唇に歯を立てた。悲惨な様を、こうして受け流さなければならないという世界の不条理が、平凡すぎる世界の住人であったには耐えがたい悲しみでしかなかった。

そして、男が向こう側で患者を運ぼうとしている男を呼び止め、その男に蹴りを入れる音が聞こえた。
医者の震撼した叫び声と、女の人の声が聞こえた。

眼さえ向けられないその恐ろしい世界の了解に、は手をついていた土の、草の刃を握りしめる。

―――どうして、こんな男一人に何人もの人間が…!!

その手の震えに気付いたボニ―が、静かに口を開いて、に言った。

、何も考えるな。これは世界の一つだと思うんだよ、境の向こうで人生の喜び一つしれない、腐ったクズのな」
「…ボニ―さん……」
そう小声でささやかれ、は彼女の近くにいることで、少しだけ心に張り付く痛みが取れた気がした。
だが、男は依然とその横暴な身分を振りかざしている。医者とともに患者を運んでいた看護師を、自分のものにしようとしたのだ。
そしてまた被害が増える。

彼女を救おうと足をあげた男の人が、また撃たれてしまったのだ。
誰もそれを咎める事はできない。彼と同じ目にあう事しかないからだ。
悲痛な叫び声が、街中で響いている。
誰一人大声を出せない中、その声は突き刺さるようにすべての人間の耳に入っていた。

――けれど助ける事は無い。
―――誰一人、そんな事は、――−−


「……………………ん?」


「何してんだよ……アイツ……!!」



ボニ―さんが沈めていた顔を上げた。はそれにつられ同じように彼女の顔を窺い上げると、彼女はまるで信じられない光景かのような瞳で、
まじまじとその一点を見ていた。
が後を追いその先を見れば、そこには原作と同じように、ゾロが酒瓶片手に天竜人の前に立ち膚かっていた。
こんな重々しく、そして誰もが眼も向けたくなくなるような光景の中、こうしてゾロは入り込んできていたのか…。

…ゾロ…!こんな中堂々と歩いてくるなんて…、
…いや、それはすごいって言うよりも……ばかなんだな…。

そしてゾロの何も知らない態度に、天竜人はなにより厚顔な男だと逆に驚かされ、そして拳銃の引き金をすぐさまに抜いた。
もちろんそれは、弾が弾き出されゾロに届く前に、彼が避けてしまうにすぎないのだが、ゾロは自分の鞘から抜刀し、その刃をあろう事か天竜人に向けようとした。
それは、ボニ―の助けによって難を逃れるのだが、自分の隣にいた人間が、その一瞬に彼のもとへ飛び、刀を向けるその動きすら封じ込める。
あまりの速さに、は眼で追うどころか、ボニ―が倒れたところを探すのですら遅れてしまった。
ボニ―の小さくなった体を、思わず立ち膝しながらに見つめていると、天竜人がその悲惨な光景に納得したように、踵を返そうとした。

…人一人死んでしまった事が。仮に演技であったとしても、それで満足するって一体どういう神経してるの…、

は、天竜人が男に跨り汚らしい顔で歩く姿を、気づけば睨んでいた。
ぶっ飛ばしたり、あわよくばルフィのような力があってほしい。そういう気すらした。


そのとき、天竜人がの横を通る時に、
恐ろしいほどの偶然がかちあい。

は、眼が合ってしまった。



―――あぶなっ……!!

はすぐに目線を落とし、静かに固まった体制に入ったのだが、
天竜人が、恐ろしい事にまた地へ足をつき、だらだらとこちらへ足をよせる音が聞こえた。
――なんでよ、なんでくるのさ!?私何もしてないじゃないかぁ!!

「おい女、ちょっと顔をあげぇ」
その言葉に、思わずびくっと反応しかけた体を抑え込み、なんとか無表情に顔を上げた。
「……はい」
「むふ……ふーーん、」
観察でもされるように見つめられ、思わず表情にすら出てしまいそうだった、吐き気がする男だ、本当に。
よくそんな気持ち悪い声をだして、人の上に立っていられる。
そんな罵倒が頭の中にないまぜになっていく、努めて無心を突き通しながらも、この男がこれから起こす非道を思えば、いつだって腕を上げてやりたかった。
そして、天竜人が顔を放すと、放り捨てるように、絶望的な言葉を言い放った。

「よし、こいつも妻にしてやるえ、」

「―――へっ………!?」



――――嘘……?!!

が愕然と言葉を詰らせたとき、遠くで小さい体のままにを見ていたボニ―も、思わず声を張り上げそうになった。
泣いていた顔を戻し、目の前での周りに男たちが囲んでいくのを、今にも殺気を放ちそうな心を抑え込み、必死で運を求めた。

「なんてこった…、が狙われるなんて……!」

そこで死んだように動かないようにしていたゾロも、ボニ―の動揺を見ながらに、一体何があったんだと思った。

「籠に入れて遊んでやるえ!」

そう言うと、黒いスーツの男たちが、体をつかみ立ち上がらせた。
もがこうと体をよじれば、力任せに自分の腕を掴み、気づけば身動きの取れないよう腕をとられてしまっている。
動いてもまるでびくともしない。けれど変に大声を出せば、彼の怒りを生み、下手をしたらまた誰かに危害を加えかねない…!

「いやっ!離してください…!」

「むーん、また妻が増えたってお父上様に怒られるかえ〜、」

天竜人が、自分の姿から目を戻し、またのそのそと歩いていく。
自分の声なんてまるで聞いていない。私がもう、自分のペットのように扱える事だと思っているのだろう。そして、それが今の事実なのだという事は、もう自身思い知らされている。自分の常識なんて通用しない世界だ。
そして、男たちに引っ張られ、嫌がる脚を引き摺りやられていく…。

その時、抵抗しながらになんとかボニ―さんの顔を見れば、彼女もまた、今にも飛びかかってきそうな勢いに、思わず動かないでと、願っていた。
ボニ―さんが船長である以上、私情や僅かな情けで助けを起こすことは無いだろうが、それでも、こうして誰にも止められずに動いて行く時間が、次第にの瞳にまた涙を湧き上がらせていく。

男に腕を捕らわれながらに、開けられた道を通って行くと、霞みかけた視界の端に、よく知っている顔が見えた。
ホーキンスさんや、ギャングベッジさん…、恐らくウルージさんやアプーさんにも見えている事だろう…、
彼らと話してみたかった。些細なことでいいから、彼らの声を聞いてみたかった。

そして…ケイミーを助けたかった。
自分が何のためにここにいるかじゃなく、何が出来るかを、見つけられたのだ。
もしかしたらでも、戦闘をとめられるかもしれないという、可能性があったのに…!
こんな風に自分の身を地獄へ捧げるなんて…!

「いやだっ……、」

「…………!!」

ボニ―が、体を戻し、の方へ立ちあげる。

ゾロも、体を捩り必死で抵抗を見せるのほうを向いた。




こんな風になるなんて………!


なんでもいい―――助けて――!










お願い……!!
















































(20090428)